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2023年11月11日土曜日

危機に瀕すると強くなる

危機に瀕すると強くなる しかし、現在の日本の大人ははたして、そのように子供を叱るほど自分自身がしっかりしているかどうか怪しいものです。著者の大学から山手線の田町の駅まで行くのに信号が一つあります。 東京の中心に近いこともあってかなりの交通量があります。その交差点の角には芝浦小学校、そして東京工業大学付属工業高等学校が並んでいます。 著者はいつもその信号をわたって帰路につくのですが、最近では車が来ないと判ると、ほとんどの大人が信号を見ないで横断します。その後を「信号を守りなさい」と先生から言われている生徒がおそるおそる大人の後をついて、赤信号を渡っているのを目幣するのです。あるところで規則を破り、あるところで成人式の若者の態度を非難する、こうした「使い分け」は子供には判りにくいでしょう。 ところで、ルソーの言っている「我慢」が必要だという正体は何でしょうか? 何で、子供に欲しがるものを与えると、最後には星を求めてくるということは何を意味しているのでしょうか? この問いは、わたしたちの体とこころの奥に潜んでいるものを取りださなければなりませんので、再び動物に登場してもらいます。 ゾウリムシという簡単な構造を持つ原生動物がいます。楕円形で体の周りにひげのような鞭毛があり、餌を探して泳ぐ原生動物です。このゾウリムシも自由食より制限食の方が平均寿命で二倍、一番長く生きるものは三倍から四倍の寿命であることが判っています。 ゾウリムシは単性生殖といってオスメスの区別もなく、繁殖をするときには自分自身が分裂して複製を作り増えていきます。その点では「ばい菌」の繁殖と似たところもあります。 ところがゾウリムシに餌をあまりやらないようにすると、体の内部で変化が起こり、「性」を持つようになります。そして、いよいよ生存が危なくなるとオスとメスに分化し生殖活動を行って新しいゾウリムシを作るのです。 このことは、「生物が生命と子孫を守ることに危機を感じたときには、ある種の力を発揮する」ということを示していると考えられています。多くの生物はオスとメスの両性を持ちますが、それは生存競争を勝ち抜くのに武器になるからです。もし、性の区別がなく、自分が自分と全く同じ子供を作るとすると、その子供は自分より能力が高くはなりません。「トンビが鷹を生む」というようなことはあり得ないのです。ところが性が二つに分かれていて、オスとメスがそれぞれの遺伝子を半分ずつ出して子供を作る、とその子供は両親の良いところだけを受け継ぐこともできますし、場合によっては両親のなかにあっても隠れていた才能が芽吹くこともあります。 このようなことは人間のように複雑で高度な動物でも起こるのですから、小さな原始的な動物ではより激しく起こっても不思議ではありません。ゾウリムシでも危機に瀕してその作戦を採用しているのです。 生物はかなり高等なものでも、平穏無事のときにはそれなりに「サボる」ことを知っているようです。例えば、サルの集団では、その集団のサルの全部に行き渡らない程度の餌を早朝に与えると、サルは餌にありつくために一斉に朝早く起きてきます。反対に、サルが食べきれないほどの餌を与えると、すぐ寝坊して一時頃、ノソノソと起きてくるようになります。生物はサボることができると判ればサボるというのが正常な姿のようです。 余談ですが、大学生は朝の講義に出席を採らないと出席率が悪くなりますが、出席を採り始めると判るとその情報は一斉に学生に流れ、教室はにぎやかになります。学生は実に単刀直入でわかりやすいと言えますが、先生にとっては「学生もなんといっても動物だな」と思う瞬間でもあります。ところで、栄養を制限すると平均寿命がのびたり、ボケが防止されたり、また免疫力の低下が緩やかだったりするのは、生物が危機を感じて、「のんびりしていたらダメだ。体の機能を総動員して危機に対して準備をしておかなければ」と考える一種の危機管理と考えられます。体は自動的に反応して、抵抗力や活動力を高め、それが結果的には平均寿命を延ばすこととして現れるのです。 著者はあるとき動物の体のなかにできる「ガン壊死因子」の研究をしたことがあります。ガン壊死因子とは生物の体のなかで合成される制ガン剤で、その役割は自分自身の体にできるガンを自分自身で殺すことです。このガン壊死因子は動物がガンにかかると血中の濃度が高くなる特徴があります。つまり、生物は自分の体のなかに発生したガンや病原菌を自ら駆除する機能が備わっていますが、普段はあまりその機能を発揮せず、いざ危機になると武器となる化学物質の濃度を高めて対抗するのです。常に「いざ鎌倉」というときのための準備だけをしておいて、その時がくると「火事場のバカ力」を発揮する方式です。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231111   133

【武田邦彦】最新!重大なお知らせです。「忙しく、楽しい2年間でした・・

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大谷がグローブ寄贈の裏で語った少年たちへの”本当の思い”に米感動「夢を与えるとかじゃない…本当に伝えたいのは…」

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2023年11月10日金曜日

満たされればダメになる

満たされればダメになる 現代ほど科学技術が進歩していないときにも、人間は何らかの制限の中で生きていかなければならないということに気づいた人は多いのです。宗教家の多くはそうでしたし、日本では良寛などに代表されるように自らを制限の下におこうとした人もいます。 近代教育の父とも言われるルソーは、その著書『エミール』の冒頭で本の趣旨について次のように書いています。 「よい教育がたいせつであることについて、あまり多くは語るまい。現在行なわれている教育が悪いということを、ながながと証明することもするまい。そんなことは、たくさんの人たちが、わたしよりも前にしてしまっているし、わたしは、いまさら、みんなの知っている事柄で、一冊の本をいっぱいにしたいとは思わない。」(中央公論社世界の名著36から) ルソーは一七一二年六月二八日、スイスのジュネーブに生まれました。もともとルソーの両親はフランス人でしたが、宗教革命を避けてスイスに亡命した新教徒の一家族でもあったのです。 フランス革命が起こる前の二〇〇年ほどの間、フランスを中心としたヨーロッパはマルチン・ルターの起こした宗教革命とその後に続いた新教徒とカソリックの争いに明け暮れていました。日本に生活していると同じキリスト教徒同士が、どうして血で血を洗う争いをするのか理解できないと思いますが、近親憎悪と利害関係の絡みは人間にとんでもない行為をさせるのです。 ともあれ、ルソーはそんな古い時代に生きた人だということを頭に入れて、彼の書籍を読むとその慧眼(けいがん)に驚かされます。トルストイが言っているように、また多くの歴史家が感じていたように、時代もまた環境の一つを作り出し、その時代に生きる人を束縛します。それは、人間が時代を作ってきたのではなく、時代が人間を作ったのだ、ということもでき、時代と感受性の高い人の間の相互の交換が見られます。 ルソーは波瀾に富む青年時代を送り、四一歳のとき『人間不平等起源論』を世に出しました。 それまで人間には貴賤があり、身分が違ったり不平等であるのは当然であると思われていたのですが、当時は「本当に人間は不平等でよいのか?」が真剣に問われ始めた時期だったのです。 本当に人間は平等か、もし平等としたらそれはどういう原理原則によっているのか? 彼は「自然状態、自然人」というところから出発してこの大きな課題に取り組みました。ルソーは、人間の根元を探求する過程でその興味を「教育」に向けたのです。そして、彼が五〇歳のとき、『エミールーまたは教育について』を出版しました。人間を人間として観察し、子供を子供として本当に真っ正面から見つめ、そして導き出した教育の考え方は、それまでのように子供を不完全な人間として子供の人権を軽視した古い教育観ではなく、子供の人格と自由を尊重し、子供の側にたった教育を主張したのです。ルソーが「子供の発見者」といわれるのは彼のこのような考え方によるのです。 それでも、当時、子供に人格を認め、子供の自由を尊重するなどとんでもないことだったのです。「エミール』が発売されるとすぐ、官憲は発売を禁止、ルソーは高等法院から有罪判決を受け、逃亡するハメとなりました。そして、発売から僅か一四日の六月九日、『エミール』はパリで焚書にあうのです。 その『エミール』には次のように書かれています。 「あなた方は、子供を不幸にするいちばん確実な方法は何であるかご存じだろうか。それは、何でも手に入れるという習慎を子供につけることだ。子供の欲望は、簡単に満たされることによって大きくなってゆく一方であるから、おそかれ早かれ、あなた方は力が及ばなくなって、いやでも、拒絶しなければならないことになる。この前例のない拒否は、子供にとって、望んでいるものが手にはいらないこと自体よりも、もっとつらいこととなる。」 つまり、子供に何でも欲しがるものを与えていると、ついに子供の要求がエスカレートし、どうしようもなくなるが、そのとき子供は「欲しいもの」がもらえないのでそれが手に入らないということより、「もらえない」ということ自体の方が辛くなるということです。 「はじめは、あなたの持っているステッキをほしがる。(中略)その次には飛んでいる鳥をほしがる。輝いている星を見てほしがる。」 とルソーは続けています。 だから、子供は甘やかせてはいけないと言ったじゃないの、という声が聞こえそうです。たしかに毎年のように繰り返される成人の日の騒ぎを見ますと、心が沈みます。多少、荒れた成人式のときには、「あれは、成人のせいではない。子供をそのように育てたのは大人だ」という意見も出ますが、子供といっても成人です。あまりに酷い状態になると、成人になれば自分は自分の行為に責任を持つべきだ、と多くの人が感じるようになります。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231110   130

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