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2026年6月20日土曜日

第五章・いのちの時代 連載第百四話 旅の星

第五章・いのちの時代 連載第百四話 旅の星
至誠の覚醒
第 五 章 ・ い の ち の 時 代
連載第百四話
旅の星

彼は、よく、旅をした。

仕事で、全国を、回った。日産時代も、そうだった。北は、北海道から、南は、九州、沖縄まで。車を、売り歩いた。そして、ベンツの、商用車を、扱うようになってからも、同じだった。

メルセデス・ベンツ日本では、コマツ製作所の、各地の販売店との、つながりが、できた。彼は、その縁を、頼りに、また、全国を、駆けた。北の店から、南の店へ。会って、話して、また、次の土地へ。日産で、やっていたことを、そのまま、繰り返していた。

ここで、学生時代に、取っておいた、大型自動車の免許が、生きた。

若い頃、彼は、はっきりとした、目的を持って、その免許を、取っていた。

筒田先生の、多磨塾である。先生が、主宰された、その塾では、毎週、土日に、生徒たちを、山へ、連れていった。彼は、その、送り迎えの、運転手を、務めた。日産の、シビリアン。二十数人乗りの、マイクロバス。その大きな車に、生徒や、学生の、教師団を、乗せて、彼は、奥多摩へ、八ヶ岳へと、走り回った。山道を、若者たちと、駆けたのだ。その、ハンドルを、握るために、彼は、大型免許を、取った。

その免許が、何十年も、経って——後半生の、生計を、支えることになる。十トンの、大型車。後ろが、貨物の、バンに、なっている。その車を、彼は、日本全国で、乗り回した。ハンドルは、大きく、車体は、長い。けれど、彼は、それを、苦にしなかった。むしろ、その運転席から、流れていく、日本の、風景を、眺めるのが、好きだった。学生時代、山道で、マイクロバスを、駆った、あの感覚が、体に、残っていたのだろう。

思えば——この免許もまた、師から、始まっていた。筒田先生の、塾の、山行きのために、取った、その免許が、巡り巡って、彼を、全国の、旅へと、運んだ。師との縁は、こんなところにも、糸を、引いていた。

振り返れば——彼の人生は、いつも、旅とともに、あった。

不思議なことだ、と、思っていた。なぜ、自分は、こうも、全国を、回る仕事ばかりに、なるのか。会社が、変わっても、扱う商品が、変わっても、気づけば、また、旅をしている。北へ、南へ。

けれど、彼には、ひとつの、答えが、あった。

四柱推命である。彼の、生まれ持った、命式。そこには、旅に、関わる星が、刻まれていた。生まれた、その瞬間に、空に、配されていた、星の、巡り。それが、彼を、旅する人生へと、導いていたのだ。

仕事が、彼を、旅に、出したのではない。星が、彼を、旅へ、向かわせていた。だから、どの会社に、行っても、どんな商品を、扱っても、自然と、全国を、駆ける形に、なる。彼は、生まれ持った、波の上を、歩いていた。ただ、それだけのことだった。

これこそが、彼が、牧先生から、学んでいたことの、核だった。人は、生まれ持った、運命の、波の上を、生きている。その波は、読める。あらかじめ、わかる。彼が、信じ、学ぼうとしていた、その真実が——ほかでもない、彼自身の、足跡の上に、はっきりと、現れていた。

全国を、駆けた、その旅路は、縁も、運んできた。

コマツの、ある販売店で、彼は、ひとりの男と、知り合った。仕事を通じて、親しくなった。その縁は、その後も、長く、続いた。会社を、離れ、商売の、つながりが、なくなっても、友として、残った。今も、つながっている。旅の星が、運んでくれた、一生の、友だった。

四十年後の今、振り返って、思う。

あの、全国を、駆けた日々を、彼は、ただの、営業回りだとは、思っていない。あれは、彼の、星が、描いた、軌跡だった。十トン車の、運転席から、見た、北海道の、雪も、沖縄の、海も、その間の、無数の、土地も。すべて、彼の、命式に、最初から、書き込まれていた、旅だった。人は、運命に、導かれる。けれど、その運命を、つまらないとは、思わない。旅の星に、導かれた人生は、変化に富み、人との、縁に、満ちていた。それで、よかった。

生かされて、今を、存在する。

会社が変わっても、生まれ持った旅の星に導かれて、北海道から沖縄まで全国を駆け続けた、あの長い旅路と、その途上で結んだ一生の友を、四十年後の今、自分は、確かに、覚えている。

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