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2026年3月22日日曜日

連載:至誠の覚醒 第12話「只管打坐」

連載:至誠の覚醒 第12話「只管打坐」 川和高校を出て、私は二度、受験に失敗した。 一年目は多摩市の自宅で一人で勉強した。机に向かっていた。しかし結果は全滅だった。 二年目、大塚にある予備校に通うことにした。 そこで出会ったのが、漢文の新城先生と、数学の篠田先生だった。 新城先生の漢詩の授業は、不思議な時間だった。千年以上前の言葉が、今の自分に直接届いてくる感覚があった。言葉というものは、時間を超えるのだと、初めて知った。 篠田先生の数学は、美しかった。 美しい、というのが正確な表現かどうかわからない。ただ、式が解けた瞬間に、何か大きなものの一部が見えた気がした。世界には、人間の感情とは無関係に成り立っている秩序がある。数学は、その秩序の断片を見せてくれる窓だった。 川和高校で英語の井上先生に「ONは接触だ」と教わったとき、私はある種の驚きを感じた。あの感覚に近いものが、篠田先生の授業にもあった。 本質を一言で言える人間が、本当の教師なのだと思う。 新城先生の授業で、私はある言葉に出会った。 「只管打坐」 道元の言葉だと先生は言った。ひたすら座る。ただそれだけをする。結果を求めず、余計なことを考えず、今この瞬間にすべてを注ぐ。 私はそれまで、何かのために勉強していた。大学に入るために。親に認められるために。何かを証明するために。 だが「只管」という二文字は、そういう計算を静かに否定した。ひたすら、とはどういうことか。目的を持たずにひたすらやる、ということが果たして可能なのか。その問いが頭から離れなかった。 その年、受けた大学のうち、たった一校だけ合格通知が届いた。早稲田大学商学部だった。 合格通知を手にしたとき、喜びより先に、あの二文字が浮かんだ。結果はついてきた。だが、それは結果を求めていたからではない気がした。 只管打坐。この言葉は今も、私の座右にある。 (つづく)R080321

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