
「鯨一頭捕れば七浦潤う」という言葉がある。日本人は約五千年前、縄文時代から鯨を食し、骨や歯、ヒゲ板に至るまでさまざまな用途に活用してきた。『古事記』の中でも神武 天皇が「皆で鯨を分け合いましょう」と歌っている(久米歌)。 赤身はもちろん、皮、舌、内臓、尾肉など全身のほとんどを食することができる鯨。ちなみに私の好物は、上顎と下顎の骨の間にある脂身、『伝胴』だ。口に入れると甘く、とろける。脂というと不健康なイメージを持つ人も少なくないと思うが、水温の低い海域でも活動する鯨の脂は、寒くても固まらない。冷えるとすぐ固まる牛や豚の脂と違い、鯨の脂は菜種油や大豆油といった植物由来と同じ不飽和脂肪酸なのだ。美味しい上に健康にもよく、日本の食文化を象徴する食材のひとつと言えるかもしれない。 「鯨」という漠字は魚偏に「京」と書く。京は兆の万倍、つまり「大きい」ことを表す。これだけさまざまな用途があるうえに大きい。だからこそ、一頭によってもたらされる恵みも大きい。そんな鯨たちに日本人は感謝の気持ちを忘れなかった。日本の各地に鯨塚や供養碑、鯨の墓が残されている。 『Renaisance Vol.13』ダイレクト出版 「消えゆく日本の伝統食」野生肉の復活を 葛城奈海氏より R050530
0 件のコメント:
コメントを投稿