
「人魚(マーメイド)」 と頭を擦リ付けた二人は同じことを囁いた。 美禰子は益々天性の人懐っこさを発揮している。 書棚の整理をしていると、「ちょっと御認なさい」と美禰子が小さな声で言う。三四郎は及び腰で両帖のLに頗を出すが、美禰子の髪から香水の匂いがする。二人は「人魚(マーメイド)」と頭を擦り付けて同じことを噺くなど、傍目からは仲の良い恋人同士がくつついているようにしか見えない。 美禰子fは一向に構わず絵の方に夢中になっているが、三四郎は絵よりも美禰子の匂いや噺きの方が気になる。内心はドキドキしながら、嬉しい気持ちである。美禰子は同年齢の三四郎より大人びているから、姉のような親しさで接している。 (注1 ) 「マーメイド〈mermaid〉(人魚)」の絵画 J・W・ウォーターハウスの作品。イギリス十九世紀のラファエル前派を継承する画家で、このようなラファエル前派の絵画が流行り、漱石はロンドン留学中に美術館によく通って観ていた。有名なJ・E・ミラーの作「オフィーリア」も同時代の作品で、『草枕』に取り入れてある。 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250507
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