このブログを検索

2025年7月14日月曜日

第13章 展覧会場 あらすじ 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より



第13章 展覧会場 あらすじ 原口の絵は出来上がった。丹青会はこれを一室の正面に懸けた。ヴェラスケスの絵画が掛けられてあった大きな場所だ。 美禰子の肖像画は「森の女」という題であった。 「森の女」の前には多くの人が集まった。 美禰子は夫に連れられてきた。原口さんが案内をして「森の女」の前へ出た時、 「どうです」 と二人を見た。夫は 「結構です」 と眼鏡の奥から眸をこらした。 「この団扇を蒻して立った姿勢がいい。さすが専門家はちがいますね。光線が顔に当たる具合が旨い。影と日向の段落がはっきリして‘顔だけても面白い変化がある」 と夫は褒めた。原口は、 「いや皆ご本人のお好みだから、僕の手柄じゃない」 「御蔭さまで」 と美禰子が礼を述べた。 「私も、御蔭さまで」 と今度は原口が礼を述べた。夫は、細君の手柄だと聞いてさも嬉しそうである。三人の中て一番丁重に礼を述べたのは夫であった。 夫は、心の中で、美禰子との結婚記念にこの画を買い取ろうと決めた。 三四郎は開会後第一の土曜の昼過ぎに大勢一緒に来た。広田先生と野々宮さんと与次郎と三四郎である。第一に「森の女」の部屋に入った。人が沢山集まっている。野々宮さんは超然として入った。三四郎は、大勢の後ろから覗き込んだだけて、退いて腰掛に座リ皆を待っていた。 「素敵に大きなものを描いたな」 と与次郎が言うと、 「佐々木(与次郎)に買ってもらうつもリだ」 と広田先生が言った。与次郎は 「僕よリ」 と言って三四郎を見ると難しい顔をしていた。 「色の出し方がなかなか洒落ていますね。むしろ意気な絵だ」 と野々宮さんが評した。広田先生は、 「少し気が利きすぎているくらいだ。これじゃ鼓の音のようにぽんぼんする画は描けないと自白するはずだ」 と評した。二人は技巧の評論ばかリしている。野々宮さんは、ポケットに手を入れて鉛筆を探したが、鉛筆がなくて、一枚の活版刷リの葉書が出てきた。見ると、美禰子の結婚式の招待状である。披露宴はとっくに済んでい た。その披霧宴には野々宮さんと広田先生が出席した。 三四郎は、田舎から帰京した当日に下宿の机の上に招待状が置いてあるのを見た。しかし、期日は既に過ぎていた。 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250714

0 件のコメント:

コメントを投稿