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2025年4月27日日曜日

美禰子に出会うシーン 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦より

美禰子に出会うシーン 三四郎が廊下に出てきて美禰子に出会うシーンの漱石の描写は素晴らしい。原文でも漱石は、「その時透明な空気の画布の中に暗く描かれた女の影は一足前へ動いた」と表現している。つまり、美禰子の登場がまるで絵画から一歩出てきたようだと描写している。 この文章に続く一連の描写は、漱石が女の容姿や仕草を細かく最も美しく表現した文章で、原文でもゆっくりと味わって頂きたい。 しかし、ここでもすべての描写は、三四郎から見た美禰子の美しさを、もれなく表現しているだけで、美禰子が三四郎を見てどう胸の内に感じたのかは描かれていない。 女は腰をかがめた。三四郎は知らない人に礼をされて驚いたというよリ、むしろ礼の仕方が巧みなのに驚いた。腰から上が、風に乗る紙のようにふわリと前に落ちた。しかも早い。ある角度までくるとはっきリと止まった。自然の動作である。習って覚えたものではない。 「ちょっと伺いますが‥‥‥」という声が白い歯の間から漏れた。きリリとしている。 しかし鷹揚である。ただ夏の盛リに椎の実が生っているかと人に聞きそうな、そんな女には思われなかった。 三四郎はそんなことに気のつく余裕はない。「はあ」と言って立ち止まった。 「十五号室はどの辺になリましょう」 十五号室は三四郎が今出てきた部屋である。 「野々宮さんの部屋ですか」 今度は女の方が「はあ」と答える。 「 野々宮さんの部屋はね、その角を曲がって突き当たって、また左に曲がって 二番目の右側です」 「その角を‥‥」と、女は細い指を前へ出した。 「ええ、ついその先の角です」 「 どうもあリがとう」と女は行き過ぎた。三 四郎は立ったまま、女の後ろ姿を見守っている。女は角に来た。曲がろうとする 途端に振リ返った。三 四郎は赤面するばかリに狼狽した。女はにこリと笑って、この角ですかというような合図を顔で示した。三四郎は思わず肯いた。女の影は右へ切れて白い壁の中へ隠れた。 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250427

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